DAY5 + Open TALK3 日常/非日常の往復と、クリエイションの視座 / TSG Creative-LAB.|ASIBA

DAY5 + Open TALK3 日常/非日常の往復と、クリエイションの視座 / TSG Creative-LAB.|ASIBA

2025.12.21
日常と非日常の境界を超え、未来のビジョンを描くクリエイションの力とは?IDENCEの板谷勇飛さんが語る「Future Scape Design Studio」の挑戦。映像制作を通じて社会に新たな価値を提供し、未来を可視化するその意義を探る。若手クリエイターたちが抱える抵抗感をどう解きほぐすか、次世代に向けたエコシステムの構築に迫る。
#Ordinary/Extraordinary#Creation#IDENCE

10月24日、Creative-LAB DAY5 (Open TALK 3) を開催しました。「日常/非日常の往復と、クリエイションの視座」というタイトルで、2023年にGOOD DESIGN NEW HOPE AWARDにて優秀賞を受賞した中橋侑里さん、2024年に最優秀賞を受賞した板谷勇飛さんにお話しいただきました。本稿では、Open TALKの内容を一部紹介します。

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導入:クリエイティブな未来を切り拓くプログラム

ASIBAは、東京都が推進するTokyo Startup Gatewayの一環として、クリエイティブ領域の起業家育成を目的とした「Creative-LAB.」を運営しています。今日はそのサイドイベントであるCrative LAB. Open TALKの第4回を開催します。オープントークは、デザイナーやクリエイターを志す若手や学生が、これからも自分の才能や環境に諦めることなく、ポジティブに社会に対してアクションを繰り返すことのできるエコシステムを生み出すために、20代のクリエイターを招く連続トークセッションです。

このイベントを開催する背景には、コロナ禍を経て若手クリエイターが自ら「何かを始める」「創り出す」ことに抵抗感を持っているという課題が存在します。この抵抗感をどう解きほぐすか?がこれからのデザイン産業やクリエイティブ産業にとって重要なテーマです。若手クリエイターのアワード受賞者、先駆的な表現や社会実装を行っているクリエイターを招き、彼らの活動や思考をアーカイブし、次世代へ共有することで新たなエンゲージメントを生み出すことを目指しています。

ビジョンをビジュアライズする:IDENCEが目指す「Future Scape Design Studio」への進化

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1人目のゲストである株式会社IDENCEの板谷さんは、高校生の頃から映像制作に情熱を注ぎ、フリーランスを経て、現在は映像制作のプロダクションを率いています。彼のこれまでの道のり、そして未来を見据えた新たな挑戦「Future Scape Design Studio」について、詳しくお話を伺います。

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板谷 勇飛 氏 IDENCE 代表取締役/クリエイティブ・アートディレクター 学生起業した会社で、ブランド広告からコーポレートWEBまで幅広いクリエイティブを手掛ける傍ら、実写・3DCGの幅広い知識を活かしてアートディレクションを担当。そして、入院している小学生を対象にしたあそびのスターターキット「アドベンチャーBOX」でGOOD DESIGN NEW HOPE AWARD 最優秀賞(2024)を受賞しました。「ベッドの上から冒険を始めよう!」を合言葉に、闘病という「非日常」を「希望の物語」へと紡ぎ直すための社会実装されたデザインの力について深掘りします。

映像制作の全領域を網羅する

株式会社IDENCEは、浅草に本社を構え、業務委託を含め約15名体制で日々制作を行っている映像プロダクションです。その制作領域は幅広く、ミュージックビデオからCM、イベント映像まであえて雑多に制作をしてきました。

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IDENCEの大きな特徴は、制作工程の全領域を一貫して網羅している点です。ブランディング、ディレクション、プロジェクト進行から、撮影、CG、ポストプロダクション、サウンドまで、全て自社で手掛ける体制は映像業界において珍しいといえます。そのため、これまでに手掛けてきた案件は多岐にわたりますが、その中でも特に「未来」をテーマにしたビジュアライズ案件にこれまで強みを発揮してきました。

例えば、大成建設の2030年の鎌倉市の資源循環の形を描くプロジェクトや、ニコンがラスベガスの世界最大のテクノロジー見本市CESで発表した2024年の技術の未来構想のプロジェクト。または、板谷さんの地元である岡山では、中国銀行(中銀フィナンシャルグループ)のフルリブランディングを目的としたテレビCM制作のプロジェクトも成功させてきました。他にも、万博の「未来の都市パビリオン」向け映像やNHK技研のフューチャービジョン、経済産業省の未来の教室プロジェクトにおける新しいデジタル教材ドラマなど、未来を可視化する案件に数多く携わってきました。これらの実績を積み重ねる中で、板谷さんは映像制作の「意義」について深く考えるようになったといいます。

映像制作の「意義」の再発見と転機

板谷さんは元々、衝動的でキャッチーなCMやミュージックビデオ制作に魅力を感じてこの業界に入りました。しかし、雑多な制作を続ける中で、視聴者にとって「良い印象ばかりではない」広告も増え、本当に自分たちが社会に提供したい「価値」について深く考えるようになります。

その答えの一つが、万博の未来都市パビリオンでした。万博で、まだ存在しない未来を可視化する映像に子供たちが夢中になっている光景を見たとき、「未来ビジョンを描く」映像コンテンツにこそ、明確な社会的価値があることを再認識します。

「ミュージックビデオなどは予算と人脈があれば他の会社でも作れるかもしれないが、未来ビジョンを可視化するこの領域であれば、我々の力が活かせるのではないか。ここでこそ、我々の技術で最高のものを創り出したい」

この思いが、IDENCEが次に進む大きな原動力となりました。

コーポレートビジョンのアップデートと「Future Scape Design Studio」の立ち上げ

これらの経験を踏まえ、株式会社IDENCEはコーポレートブランドを一新し、「Future Scape Design Studio」として新たなスタートを切ります。

Future Scape Design Studioでは、従来の映像プロダクションという枠組みを超え、「ビジョンをビジュアライズする会社」としてセグメントを切り、未来構想に特化したクリエイティブサービスを提供します。例えば、建設業における再開発計画のように、まだ存在しない「未来のビジョンや構想」を、CGやVFX技術を用いて具体的に「見える化」することで、プロジェクトへの賛同者や興味を持つ人々を増やし、実現への橋渡しをすることを目指します。万博の未来都市パビリオンのように、未来を具現化し、人々に届けることがミッションです。

自社IPプロジェクト「架洲」の開発

受託業務としてのビジョンビジュアライズだけでなく、IDENCEは自社のIP構築にも着手しています。それが、「架洲」プロジェクトです。

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架洲とは、日本のありとあらゆる特質を凝縮した、架空の「実験島」であり、自社IPとして開発・運用されます。この島は、直径約15kmの規模感で、大都心(丸の内をイメージ)から限界集落まで、車で約30分で移動できる範囲に様々な環境が存在します。単なる空想の街ではなく、明治時代の地図から変遷を辿り、首都高や橋、道路のダイヤや一方通行の規制まで、詳細に設計されています。このリアルな設定により、「本当にありそう」な景色が凝縮され、高い没入感が生まれます。

板谷さんは、自社のビジョンムービー制作の必要性から、このワールド制作に着手しましたが、結果としてこのワールド自体が、Future Scape Design Studioの活動の核となる資産、そして強力な競争優位性になると考えています。

「この社会で我々が生きる意義は何か?」 その問いの答えとして、技術力とクリエイティビティを結集し、誰もが想像できなかった未来のビジョンを可視化する、板谷さんの今後のご活躍が楽しみです。


身体的実践から「問い」を生み出すデザイナー

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中橋 侑里 氏 アーティスト/デザインリサーチャー 共に暮らす猫の振る舞いを手がかりに人の生活習慣を再考する実践を行う。居室を模した空間に人と猫の移動経路を糸で記録したインスタレーション「h(cat)」、猫の選んだ寝床で人が寝てみる24日間の記録「安楽の冒険」など。主な受賞にWIRED CREATIVE HACK AWARD 2年受賞(2022/2024)、GOOD DESIGN NEW HOPE AWARD 優秀賞(2023)。 https://nyuri.myportfolio.com/about

中橋さんは、デザイン工学と学際情報学を背景に、アーティスト・デザインリサーチャーとして制作を行っています。

彼女が大切にしているのは、「リサーチは日常にある」という考え方です。頭の中で考えることや既存の知識だけでなく、自らの身体を通して得られる体験から問いを見出し、その過程を作品として提示しています。

身体の特性を起点にしたリサーチ

デザインリサーチにおいて中橋さんは、自身の身体の特性を出発点に、ものの見え方や感じ方を捉え直す実践を行っています。その一例が、学部時代に、目覚まし時計をリデザインする課題に取り組んだ際のリサーチです。

中橋さんは自身が近視(度数0.03)であり、特に寝起きの時間帯は視界がぼやけ、はっきりと見えていないことに着目しました。そこで、眼鏡をかけずに「裸眼」の状態で一日を過ごし、家の中だけでなく外出も含めて、どのようなものが目立って見えるのか、何に注意が向くのかを中心に記録しました。

中橋さんは、視力が低いこと自体を問題として捉えているわけではありません。むしろ、裸眼ならではの見え方を観察しデザインを考えればよい、という立場を取っています。このリサーチでは、「よく見えない状態」を克服するのではなく、そこから立ち上がる感覚や経験を手がかりに、新たなデザインの視点を導き出しました。

「安楽の冒険」:日常の行動から価値を掘り起こす

「安楽の冒険」は、毎晩の寝床を猫に選んでもらうという実践を行った作品です。

中橋さんが自身の日常の行動に立ち止まり、そこから生まれた問いを実践として展開しています。特定の研究課題や成果を前提とするのではなく、生活の中で繰り返されていた行為そのものを見つめ直すことから始まりました。

コロナ禍で自宅で過ごす時間が長くなる中で、中橋さんは、気づくと猫のそばで寝落ちしていることが多いという自身の状態に着目します。そこから、「猫が選んでいる場所は、人にとっても心地よいのではないか」という素朴な問いが立ち上がりました。この問いを確かめるため、毎晩、猫の寝ている場所で就寝するという実践を、約1ヶ月間にわたって行いました。

この実践を通して、中橋さんの中で「私にとって心地よい寝床とは何か」という定義が揺らいでいきます。ベッドや布団といった既成の寝床だけでなく、床や家具の隙間、壁際など、これまで寝る場所として意識してこなかった空間に身体を預けることで、見慣れていた居室や生活空間の捉え方が変化していきました。「安楽の冒険」は、日常の行動に潜んでいた感覚を身体で確かめることで、環境との関係性を捉え直す試みとして位置づけられます。

詳細はこちら

人と猫の動きから空間を捉え直す

「安楽の冒険」を通して、空間の使い方や捉え方が自身の中で変容したことをきっかけに、中橋さんはその気づきをインスタレーションとして展開しました。この作品では、家の中で生活する人と猫の動きをトラッキングし、居室内での移動経路を可視化しています。

リサーチでは、人と猫それぞれの行動パスを記録し、画面上のデータとして表すだけでなく、居室を模した展示空間の中に、糸を用いて立体的に表現しました。床付近だけでなく、家具の下や上、視線の高さを超えた場所にも糸が張り巡らされることで、人間が普段意識していない空間を、猫が日常的に移動していることが身体的に理解できる構成になっています。

鑑賞者は、椅子の下をのぞくために屈んだり、自分の背丈よりも高い場所にある糸を追って見上げたりしながら、自身の等身大の視点と身体を使って空間を観察することになります。この身体的な体験を通して、日常の居室や身の回りの空間をどのように使うことができるかをあらためて考えることを促す作品です。

中橋さんは、「身体を使って試してみる」というものづくりのスタイルが「私たちの日常生活そのものが身体を通して体験されている」という感覚から形づくられてきたと語ります。特別な方法というよりも、生活の延長にある行為として続けられてきました。

周囲から「体張るデザイナー」と呼ばれることもありますが、彼女の活動は、日常の中にある行動や感覚を丁寧にすくい上げ、身体を起点に問いを立てていく実践として位置づけられます。

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Creative-LAB. Open TALK #3 日常と非日常の往復と
クリエイションの視座

テーマ: Creative LAB. Open TALK は、自らの表現活動やクリエイティブワークを通して、既存の枠組みにとらわれず、自らの衝動から表現と生き方を切り拓いてきたゲストを招いた対話型トークシリーズです。今回のテーマは、「日常と非日常の往復と
クリエイションの視座」。 創造性とは、どこか遠くにあるものではなく、私たちが意識しない「日常の慣習」の中や、目を背けがちな「非日常の課題」の中に潜んでいます。この対極にある二つの世界を自由に行き来し、新しい価値を生み出す二人の若き才能が登壇します。 日時: 10/23(木) 18:30~20:30 場所: TODA BUILDING 8階(〒104-0031 東京都中央区京橋1丁目7−1) & Online(zoomより配信予定) プログラム: 18:00-18:30 開場・受付 18:30-19:30 ゲスト2名によるレクチャー 19:30-20:00 クロストーク・質疑応答 20:00-20:30 ネットワーキング

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