DAY3 + Open TALK1 衝動する表現から始まる領域の飛び越え方

DAY3 + Open TALK1 衝動する表現から始まる領域の飛び越え方

2025.10.10
創造の衝動が生み出す新たな領域の飛び越え方を探る。魔女エルの壮大な理想と現実のずれ、半田地寛の移動型表現空間、仲村怜夏の記憶を宿すプロダクト。彼らが語るのは、理想と現実の狭間で生まれる独自の創造性と、衝動を原動力にした生き方。創造の本質に迫る一日。
#Creative Impulse#Witch Elle#Mobile Expression Space

9/28にCreative-LAB. DAY3 (Open TALK1) を開催し、前半は登壇者によるトークセッション、後半は参加者同士での相互メンタリングを行いました。

登壇したのは、記憶のプロダクトブランドを展開する仲村怜夏(yomiyomi)、Experimental Artで世界の未知を解放する自由の魔女エル(「未知の解放 -魔術された天球の音楽-」)、軽トラックに移動型の表現空間をつくる半田地寛(二畳建築)の3名。それぞれが、自身の衝動を起点にジャンルを越えてクリエイションを実践してきた当事者です。

本トークセッションは、東京都が推進するTokyo Startup Gatewayの一環として開催している、クリエイティブ領域の起業家育成を目的とした「Creative-LAB.」のサイドイベントとして実施しました。


自由の魔女エル:理想と現実の「ずれ」に宿る魂

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壮大な構想と小さな円盤

エルさんは、現代の魔女として、古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが提唱した「天球の音楽」理論に基づき、足跡を魔法陣にするサウンドインスタレーションや、鑑賞者がぶつかることで音が発生する、水星の魔法陣を再解釈した展示などを制作しています。

魔女としての作品制作に取り組み始めた当初は、新しい体験を創出したいと口にしつつも、実際には絵画しか表現手法を持ち合わせていませんでした。そこでASIBAのインキュベーションプログラムに参加し、当初構想したのは、7m×7mの巨大空間を5つの巨石が周回し、それぞれが異なる音階を奏でるという壮大なインスタレーションでした。

しかし、実際に3ヶ月間で実装できたのは、たった35cmの円盤と、その上の5つの豆電球だけ。この、理想と現実の大きなギャップ。 壮大だったはずのイメージでさえ陳腐なものに塗り返されるような感覚は、モノを作る人にとって共通の敵であり、当時はそれが怖くて手が動かせない状況でした。

しかし、実際に手を動かしてみて感じたのは、「そのずれにこそ、その人らしさが宿る」ということ。巨石の周回は、無知な自分の最大限度のイメージで、他者でも容易に想像できる仮初めの理想でした。一方で、苦労して絞り出し、実力不足で35cmになった「ずれ」のある制作物には、唯一無二の個性と身体性が宿っています。美しい完璧なイメージを現実世界に引き下ろすプロセスこそがアートであり、そのために手を動かし続けることの重要性を痛感したと言います。

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インスピレーションは「熱が命で鮮度が命」

さらにエルさんは、制作における「衝動」を最も活かせるタイミングとして、「脂が乗っている時」を挙げました。インスピレーションは「熱が命で鮮度が命」であり、アイデアを冷凍保存したり燻製にしたりしてはいけない。例えば、六本木ヒルズのパブリックアート<ママン>からインスピレーションを得た熱が覚めないうちに、上野公園で歩行者の足跡をホウキで掃くというパフォーマンスを衝動的に実行しました。この思いつきでやった作品が、一番伝えたいことの純度が高い作品となったのです。

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連載「WHICH'S SCOPE 魔女が見るASIBA」はこちらから。

二畳建築・半田さん:移動が生み出す「偶発性」という豊かさ

続いて登壇した二畳建築の半田さんは、軽トラックの荷台に小さな建築物を作り、それを移動させながら街中で活動を生む、「可動産」の実践について紹介しました。彼の活動の軸は、場所に合わせて建築を作るのではなく、自分や誰かがやりたいことベースで物を作り、それを街に展開したときに起こる予期せぬ出来事を楽しむこと。

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街を巡るギャラリーと偶然の接触

1つ目の事例は、風景写真をコラージュするアーティストとのコラボレーション「モーターループ」です。従来のギャラリー展示の制約から離れ、風景そのものを切り取り、移動しながら展示を行いたいというアーティストの要望に応え、軽トラックの荷台に空間を制作。2日間で東京の約20箇所弱を巡りながら、その場で写真を撮り、貼っていく制作プロセスそのものを見せる展示を行いました。

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この移動型の展示の最大の価値は、「偶発性」を生み出した点です。アートに触れる目的を持たない人々(例えば、駐車場で車を点検する人や、子供たち)が、急に現れた空間に接触し、シールを貼るなどしてアーティストと共に絵を作る機会が生まれました。場所が持つ目的(ギャラリーに来る)とは全く異なる、新しい出会いと体験を街中に提供したのです。

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抹茶の「時間」を共有する茶室

もう1つの事例は「茶室」です。茶道家とのコラボレーションのもと「飲むことや味覚ではなく、亭主が立てている雰囲気、場、空間、時間を共有する」体験の価値を最大化する空間設計を目指しました。

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そこで、軽トラックの荷台に茶室を制作し、池袋のマーケットなどで出展しました。マーケットに、あえて「立てている時間」や「行為」といった体験価値を持ち込むことで、子供を含む多様な人々が、茶道の本質に触れる機会を創出しました。

半田さんは、キッチンカーとマルシェの中間にある、仮設的で能動的に参画できる体験的な建築を通じて、リーチしづらい文化や体験をどうやって街中に引き出せるかを探求しています。

yomiyomi・仲村さん:衝動を起点に、「忘却」に挑む

仲村さんは「記憶がモノを通して生き続ける世界」を目指すyomoiyomiというプロジェクトを進めています。第1弾プロダクトは「思い出召喚ステッカー」。スマートフォンをかざすだけで、1秒で思い出がよみがえる、ICチップ内蔵のデジタルステッカー。空間・アート・プロダクト領域を横断しながら、「モノに記憶を宿す」という新たな記憶の在り方を社会に提案しています。

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トークセッションでは、社会の期待や評価を超えた、自らの根源的な「衝動」に突き動かされた生き方を語ってもらいました。仲村さんの活動の原点は、19歳で経験した父の死。「人はいつ死ぬかわからない」という痛切な気付きから、「自分の死後も残り続けるプロダクト」を生み出したいという強い衝動が生まれました。過去、社会的な「いいね」を意識したアイデアは、自身の思いが続かずやり切れませんでした。彼女が本当に求めていたのは、「孤独な夜に寄りかかれるプロダクト」であり、何よりも「自分の思想が体現されているプロダクト」だったのです。

この強い願いが結実したのが、記憶のプロダクトブランド「yomiyomi」です。仲村さんが挑むのは、「忘却」という人間の機能に対抗し、社会のパラダイムを変えること。思い出を物理的なステッカーに結びつけ、スマホをかざすだけで蘇らせる「思い出召喚ステッカー」は、その変革の第一歩です。

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仲村さんは、やりたいことだけでは生きていけない現実の中でも、一度きりの人生を楽しむために、「衝動ドリブン」で生き続けていると言います。時にダークサイドに堕ちそうになる自分と向き合いながらも、純粋な好奇心とデカい夢を持ち続けること、そして「何があっても自分だけは自分の夢を信じてあげたい」という強い覚悟を持ち、領域を飛び越えた挑戦を続けています。

クロストーク:非合理性を肯定し、自らの人生の書き手となる

トークセッションの後半は、強烈な衝動を原動力とするクリエイターたちが、大きな夢と社会の現実、そして創作の「怖さ」にどう向き合っているかに焦点が当てられました。

夢を叶えるための「本音」と「建前」

仲村さんは、壮大な夢を実現するために必要な人や資金を集める過程で、自分の本性と建前を使い分ける技術を身につけたと明かします。一方、エルさんは、複雑な自身の思想をそのまま表現するのではなく、制作物そのものが世間に伝えるための翻訳機として機能することで、本音と建前が次第に一体化したと言います。2人とも異なるアプローチで、個人の哲学を社会と接続しようと模索していることが伝わります。

創作は「生きた証」— 恥を恐れず、速度を上げろ

創作物を世に問うことへの恐れについて問われたエルさんは、その作品が「永遠のお墓になるかもしれない」という覚悟と、「どんなに未熟なものでも、これが私の生きた証なんだ」と言い切れる信念が、創作の原動力だと語りました。

仲村さんは、作品を作り続けるためのマインドセットとして、「作っている時点で、自分は本当に偉い」と肯定することの重要性を強調。さらに、夢に向かうサイクルを速く回すためには、「なるべく早く恥をかいた方がいい」と、恐れを乗り越えて実行に移すスピード感を重視する姿勢が大切だと話してくれました。

「非合理的な動き」に宿る作家性と美しさ

合理的で生産性が重視される現代社会において、魔術や茶道のような「合理性の外にある動き」をどう肯定するかという問いは、表現者たちにとって核心的なテーマです。

半田さんは、自分の行動を肯定するためには、「誰といるか」という環境を自ら選び、変えることが重要だと言います。対してエルさんは、茶道や魔術に見られる「無駄にさえ見える謎の動き」や、それに費やされる「時間」こそが、唯一無二の個性、つまり作家性を生み出す「美しさ」なのだと力強く肯定します。さらに、この非合理的な行動が生み出す個性的な物語(ナラティブ)は、結果的に他との差別化を生み、ビジネス的な価値にもなりえます。

仲村さんは、社会の大きな流れに抗うような活動を続ける上で、一番の支えになるのは「自分が人生の書き手であるという自覚」だと語ります。自分の人生という物語の作者(まるで漫画の原作者のように)となることで、迷いなく意思決定ができ、生きづらさから解放されるのではないか、と話してくれました。

まとめ

本トークイベントは、クリエイターの根源的な衝動が、いかにして「翻訳」され、社会実装の難しさを乗り越えていくのかを深く探るものでした。「理想と現実のズレにこそ個性が宿る」という発見や、「やりたいことベースで物を作り、街の偶発性を楽しむ」という実践は、衝動性という名の「熱」 を冷まさないことの重要性を私たちに教えてくれました。現代の合理性に疲弊した私たちにとって、3人のように「非合理的な動き」を肯定し、自らの手で「生きた証」を打ち立てていく姿勢は、非常に示唆に富むものでした。クリエイティブな活動を通じて、環境を変え、自らの人生の主導権を取り戻すこと ――その勇気を与えられるレクチャーでした。

Creative LAB. Open TALK #1
 衝動する表現から始まる領域の飛び越え方

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Creative LAB. Open TALK は、自らの表現活動やクリエイティブワークを通して、既存の枠組みにとらわれず、自らの衝動から表現と生き方を切り拓いてきたゲストを招いた対話型トークシリーズです。 今回のテーマは「衝動する表現から始まる領域の飛び越え方」。 登壇するのは、記憶のあり方に新たな循環をもたらす試みを行う仲村怜夏(yomiyomi)、Experimental Artで世界と対峙する自由の魔女エル(詳細)、軽トラに移動型の表現空間をつくる半田地寛(二畳建築)の3名。それぞれが、自身の衝動を起点にジャンルを越えて創造を実践してきた当事者です。 彼らの語る経験や問いを通じて、「どうつくるか」だけでなく「どう生きるか」という視点から、ものづくりの現場で培われた知見、挑戦、そして越境の技法を共有します。デザインと生の関係性を捉え直し、これからの時代におけるクリエイターの新たなモデルを探る機会を探ります。 本イベントは、ASIBAが企画パートナーとして参加する「Creative Lab.」の関連イベントとして開催されます。

<詳細> 日時:9.28.13:00~14:30 場所:東京大学工学部14号館2階アーバンコモンズ プログラム: 13:00-14:00 3名によるゲストレクチャーイベント 14:00-14:30 クロストークセッション 参加費・参加条件: ゲストトーク:無料

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