
妄想の解像度を上げる ラピッドプロトタイピング / Creative LAB. DAY4 Prototyping Workshop + Mentoring
「値段はいくらですか?」
その質問を受けた瞬間、頭が真っ白になりました。画面には、さっき自分が作ったLP(ランディングページ)が映し出されています。5年後の自分のサービスを紹介するページ。キャッチコピーもある。課題設定もある。それっぽい世界観もある。
なのに、「値段はいくらですか?」という、ビジネスとして最も基本的な問いに、まともに答えられませんでした。焦って、テキトウな数字を口にしました。
「え、えーと……月額3万円、くらいですかね」
スポンサー役の人が、静かにこちらを見ています。
……考えてなかった。
キーボードだけが鳴っていた10分間
2026年2月14日、土曜の昼。 私はCreative-LABのDAY4「Prototyping Workshop + Mentoring」の場にいました。
会場は、若者の表現活動を支援するコミュニティスペース「watage」。今回、場所を提供してくれただけでなく、このセッションの空気を作ってくれていたように思います。

watage - Hub for Neighborhood Cultivation -|note
私は、記事を書くためにライターとして参加していたのですが、ASIBAの二瓶から「一緒にやってみて」と言われ、そのままワークに混ざることになりました。
最初のワークは、現在やっていること、やりたいことについての、キャッチコピー・ニーズ・解決策・世界観を書くことでした。
「10分あります。書いてください。」
部屋にキーボードを叩く音だけが広がりました。しかし、私はしばらく、キーボードを打てずにいました。「ニーズ」って何を書けばいいのか。「世界観」って、どこまで書けばいいのか。
頭の中にはあるつもりでした。あるつもりだったのに、4つの問いを前にすると、急に霧がかかったみたいになりました。言葉にしようとして、自分のアイデアの輪郭が曖昧だったことに気づかされました。
15分で「LP」ができるという異常さ

次のワークでは、Geminiのキャンバス機能を使いました。さっそくプロンプトを打ち込みます。
「5年後の自分が運営しているサービスのランディングページを作って」
……できるのに15分もかかりませんでした。ヒーローセクションがある。「こんな悩みを持つ人に」というターゲット設定がある。CTAボタンがある。



本当にできてしまった。驚きと同時に、違和感もありました。AIが、私の書いたプロンプトを「補完」してきたのです。そこには、私が想定していない「根拠」が勝手に書かれていました。「〇〇であるから△△であることは明らかです」という一文。私はそんなこと書いていない。でも確かに、文脈から読めばそう解釈できなくもない。
これは、私の意図なのでしょうか。それとも、AIが作り出した「それっぽい私」なのでしょうか。

3分で崩れる「未来」
修正を重ね、ある程度LPができたら、次は「ラープ(LARP)です」。ラープとは、Live Action Role-Playing の頭文字を取ったもので、参加者自身が物語の登場人物になりきり、現実世界を舞台に、即興で行動し、物語を紡いでいく遊びです。
ここでは、5年後の成功した自分になりきって、スポンサーにプレゼンする。これは、そこそこ恥ずかしかった。
「えー、私は、〇〇というサービスを開発しておりまして……」
自分の口から出てくる言葉が、どこか借り物みたいに聞こえます。演じているというより、台本を棒読みしている感じ。それでもLPを見ながら説明を続けます。へたくそなプレゼンながら、なんとか世界観を伝えようとします。
そこへ、スポンサー役からの質問。
「値段はいくらですか?」
焦って口から出た適当な数字。自分でも根拠がない。
「……そのサービス、誰が最初のお客さんになるんですか?」
今度こそ、言葉が出ませんでした。
「今、その課題を解決しようとしている競合はいないんですか?」
LPには、何も書いていませんでした。いや、書けていませんでした。ヴィジョンはある。想いもある。でも、「誰が、いくらで、なぜ自分から買うのか」そこが完全に抜け落ちていました。頭の中で「わかっていたつもり」だっただけで、何も決まっていませんでした。
恥ずかしいというより、少し怖かったです。自分の思考の薄さが、顕になった瞬間だったから。
AIは"それっぽさ"を作るだけ
ラープを終えて、少し冷静になって気づいたことがあります。AIはすごい。本当に、15分でLPが作れます。かつては企画→デザイン→開発と、何人もの人間が何週間もかけてやっていたことを、ひとりで、午前中に終わらせられる。
でも、AIは「自分の意図」を補完してくれるわけではありません。プロンプトから文脈を読んで、それっぽい根拠や主張まで、勝手に埋めてきます。「〇〇であるから△△であることは明らかです」——私はそんなこと書いていない。でも、なぜかページの中に存在している。
その瞬間、反射的に思いました。いや、そうじゃない。
その「そうじゃない」こそが、たぶん重要なのです。
自分の頭の中だけでアイデアを練っているとき、「自分が本当に伝えたいこと」はぼんやりしたまま漂っています。でもAIが"それっぽいもの"を目の前に出してくる。そこに突っ込みを入れたくなる。そのギャップを埋めようとすることで初めて、自分が何を求めているかが少しずつ見えてくる。
AIは答えを出してくれるのではなく、自分の中の問いを引き出してくれる道具なのかもしれません。
その夜、家に帰ってからも深夜までGeminiをいじり続けました。ここの言葉が違う、この見せ方じゃない、こういうアイデアも入れたい……疲れ果てて「もういいや」と思えるくらいまでやったら、興奮状態のままSNSにあげていました。
これが妙に楽しかった。ラープで「詰まった」あの感覚が、頭に残っていて、それを埋めようとしていたのかもしれません。
メンタリングという「強制的な視点ジャンプ」
後半は、参加者それぞれのプロジェクトへのメンタリングでした。あるプロジェクトへのフィードバックが、特に刺さりました。
「好き・嫌い」などの言葉を書かせる展示を構想していた参加者に対して、メンターはこう言いました。
「ポストイットを貼るだけでは、自己内省にならない。人が本当に内省するには、異質な空間に入る設計が必要。体験者がどう内省するかの仕掛けが、まだない。」
その言葉を聞いたとき、はっとしました。展示を作った人の頭の中には、きっとちゃんとした世界観があります。でも、「体験者がどう動くか」という視点が、設計に入っていなかった。それは、自分のラープで「値段を聞かれて詰まった」のと、構造的に同じだと気づきました。
自分の想いや世界観は、ある。でも、「それを受け取る他者」の視点が、設計の中に存在していない。これが、「妄想が社会実装に届かない」ときの、根本的な原因なのではないかと。

崩壊させてから作り直す
ここまで書いてきて、改めて思います。このワークの本質は、「すごいプロトタイプを作ることではない」ということ。アイデア → プロトタイプ → 他者にぶつける → 崩壊する → 再構築する。このサイクルを、一日の中で圧縮体験することでした。
「値段はいくらですか?」という質問にまともに答えられなかったことは、失敗ではありませんでした。あのとき、焦って口から出た、根拠のない数字があったからこそ、「私は価値の定義を何もしていなかった」という事実に気づけました。頭の中でいくら練り続けても、他者の問いにさらされるまで、そこには気づけなかったはずです。
あなたのアイデアは「値段」を答えられますか?
最後に一つ、聞かせてください。あなたの頭の中にあるアイデア。それは今、誰かに「値段はいくらですか?」と聞かれたとき、答えられる形になっていますか?
答えられなくていい。でも、答えられないことに気づくためには、一度「形にして、他者にぶつけてみたらいい。完璧なプロトタイプじゃなくていいんです。嘘でもいいから、15分でLPを作ってみる。5年後の自分として、誰かに語りかけてみる。崩壊したところが、あなたの本当のスタートラインです。
(書き手:神田 慶彦)
登壇者プロフィール
中條麟太郎/ 研究者・デザイナー
東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍中。日本学術振興会特別研究員(DC1)。心理学と情報学、デザインをバックグラウンドに、コミュニケーションを円滑にするメディアデザインの研究と社会実装に取り組む。主な受賞として、東京大学総長大賞、ACM CHI 最優秀論文賞、グッドデザイン・ニューホープ賞など。
Creative-LAB. DAY4 Prototyping Workshop + Mentoring
日時:2/14(土)13:00-17:00
会場:watage
実施方法:ハイブリッド開催
登壇者:中條麟太郎
主催:Creative-LAB.(TSGコミュニティ)
Creative-LAB.とは
Creative-LAB.は、建築・デザイン・アートなどのクリエイティブ領域に関心を持つ若者/学生(15〜25歳前後を対象)に向けた、実験的な学びの機会と対話の場を提供しています。「自分の中にある”つくるため”の問いに向き合いながら、自らの”生き方”を重ねていく」ことを目標にし、若手クリエイターによるメンタリング機会や、思考の幅を広げ、問いを磨くためのワークショップ、自ら問いを持ち実践をする若手クリエイターによる連続レクチャーを2ヶ月間限定で提供するコミュニティです。
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